特許 令和6年(行ケ)第10023号「情報処理端末」(知的財産高等裁判所 令和6年11月13日)
【事件概要】
拒絶査定不服審判の請求と同時に行った補正事項4を含む補正(本件補正)は、「特許請求の範囲を減縮」する場合に該当しないなどとして、本件補正を却下した審決の判断には誤りがあるとして、審決が取り消された事例。
【主な争点】
補正前の発明から「決済に関する情報の入力の有無に関係なく、」との事項を削除する補正事項4を含む本件補正が特許請求の範囲の減縮に該当するといえるか。
【結論】
補正事項4についてみると、文言上は、「前記接触型の読み取り部及び前記非接触型の読み取り部のそれぞれを」「情報記憶媒体から情報を読み取り可能な待ち受け状態に維持」する態様(以下「本件態様」という。)を限定していた事項を削除するものであるから、「『決済に関する情報の入力』の有無が本件態様に関係する情報処理端末」は、本願発明の範囲には含まれていなかったが、本件補正発明の範囲には含まれることになったと解釈する余地がある。
しかし、本願発明は、…決済以外の用途において適用可能な情報処理端末であって、接触型・非接触型の別を問わず、情報記憶媒体から短時間で必要な情報を読み取り可能な情報処理端末を提供するものであり…本件補正発明においても同様である。
そして、「決済に関する情報の入力の有無が本件態様に関係する情報処理端末」としては、「決済に関する情報の入力」によって初めて本件態様になるような情報処理端末が考えられるが、このような情報処理端末を利用するためには、常に「決済に関する情報」の入力が要求されることになるから、本願発明及び本件補正発明の趣旨目的に反するもので
あるのみならず、例えば、マイナンバーカードのような非決済用媒体を処理対象とする場合には、「決済に関する情報」そのものがないのであるから、「決済に関する情報の入力」がない限り待ち受け状態とならないとすると、いつまでも本件態様となることができず、非決済用媒体を読み取ることができない。そのような端末は「決済以外の用途において適用可能な情報処理端末」とはいえない。
逆に「決済に関する情報の入力」により本件態様が終了するような情報処理端末も一応考えられるが、このような端末は、当該入力後は読み取り可能ではなくなり、決済・非決済共用端末の場合において、決済に関する情報を入力すると決済目的で情報処理端末を利用することができなくなる、いい換えると、決済処理を行わないのに決済に関する情報を入力する手段を設けるという、およそ不合理なものとなる。
補正事項4を含む本件補正後の発明が、これらの「決済に関する情報の入力の有無が本件態様に関係する情報処理端末」をその技術的範囲に含むと解することは、合理的な解釈とはいい難い。
【コメント】
補正前の発明の構成を限定していた事項を削除する補正を行った場合、その後の発明は文言上、限定されていたことにより排除されていた事項を含むことになる。したがって、発明の構成を減縮する補正には当たらず、むしろ拡張する補正に当たると解釈される場合が多いと考えられる。
しかしながら、本判決では、補正事項4により、本件補正発明に補正前の発明に含まれていなかった事項が含まれることにはならないとされている。すなわち、発明の技術的範囲に変動が生じないこと、及び補正事項4の他の補正事項1及び3が特許請求の範囲の減縮に当たることから、本件補正は全体として特許請求の範囲を減縮するものであり、適法であると判断された。本判決は、特許法第17条の2第5項第2号に規定する「特許請求の範囲を減縮」する場合の当否の検討に当たり参考になると思われる。